2022.01.07
2022年1月に開催される専門職高等教育をテーマとした国際シンポジウム(主催:QAPHE/専門職高等教育質保証機構)で、敬心学園の小林光俊理事長が講演を行います。
その際に発信する内容について、東京保健医療専門職大学の宮田雅之教授と宮地恵美子教授と対談を行いました。4回シリーズで掲載いたします。
宮地専門学校における「職業実践専門課程」の創設が、日本の高等教育の「複線化」の大きな一歩であったことが良く理解できました。さらに、小林理事長は「専門職大学」の制度化に尽力されました。この狙いについてお聞かせ頂きたいと思います。
小林職業教育の高度化を進める上で、第2回でお話ししたフィンランドのように「プロフェッショナルライン」を担う大学制度を作ることが必要と考えておりました。日本においては「専門学校」を知らない人は殆どいないと思いますが、国際的には必ずしも知られていません。一方、大学は世界共通の高等教育機関です。
大学を卒業すると学位である「学士」が授与されます。一方専門学校の2年制以上を修了すると「専門士」が、4年制以上の学科を修了すると「高度専門士」という称号が授与されます。「高度専門士」の称号を得ると、大学院への入学資格も同時に与えられるのですが、「専門士」「高度専門士」は学位ではなく日本独自の称号であるため、国際通用性は高いとはいえません。日本の職業教育の将来を考えた時、グローバル化の進展する中で国際通用性の高い「学士」を取ることができる選択肢を設けることは大きな意味があると考えていました。
宮田「専門職大学」は、1964年に短期大学制度が出来た後、55年ぶりの新たな教育機関として立ち上がりました。私と宮地教授も、東京保健医療専門職大学の開設準備室のメンバーとして、専門職大学制度の立ち上がりに本大学開設の当事者として関わりましたが、産業界からの期待の大きさを強く感じました。
宮地私自身、幾つもの企業にヒアリングに出向き、専門職大学に対する期待について伺って参りました。かつてのような企業内教育の実施が難しくなった状況下にあって、実践的な職業教育を行う専門職大学は、お互いにwin-winの関係を構築できると確信しました。
小林専門職大学は、我が国の大学制度の中で、「アカデミックライン」を担う一般大学に対し、「プロフェッショナルライン」を担う新しい高等教育機関として2019年からスタートしました。専門学校における「職業実践専門課程」の創設から5年後に、産業界等と連携した実践的な職業教育を行う新たな大学制度として実を結んだわけです。中央教育審議会や国会等で参考人として招致され発言を行うなど制度の創設に携わった一人として、大変うれしく思っています。
宮地専門職大学制度は2019年にスタートいたしましたが、2021年4月時点で専門職大学は14校、専門職短期大学は3校、合わせて17校が開学しました。そして、専門職大学同士が横の連携を図る組織として、「専門職大学コンソーシアム」が2020年9月8日に設立されました。コンソーシアムの事務局は、私ども敬心学園の東京保健医療専門職大学と、学校法人電子学園のiU情報経営イノベーション専門職大学の2校が共同で務めています。
コロナ禍のため、オンラインで各校の学長が専門職大学の魅力を発信するイベントを行うなど、専門職大学全体の発展に向けて様々な企画を進めています。専門職大学同士が協力し合いながら、今後も様々な活動を進めて行きたいと考えています。
宮田文部科学省の専門職大学に対する意気込みも強く感じています。専門職大学を世の中に浸透させるための様々な資料を作成し、情報発信されています。
一般大学は「教養教育」と学術重視の「専門教育」の2層構造になっているのに対し、専門職大学では、「教養教育」にあたる「基礎科目」、そして「専門教育」では「学術重視」の教育と「職業重視」の教育とが行われ、さらに専門分野に関連の深い分野を学ぶ「展開科目」という4層構造となっています。
専門職大学は、一般大学と専門学校を足して2で割った学校、と理解されている向きがありますが、実はそうではなく、一般大学の要件を満たした上で、さらに実践的な専門教育が上乗せされている大学なのです。
小林産業界等との連携により実践的な教育を行うことも、専門職大学制度の特長の一つです。教員も実務家教員が4割以上、授業の3分の1以上が実習や実技で構成されるなど、実践的な教育を実現する仕掛けが制度に盛り込まれています。さらに、1つの授業が40人以下で行われることも制度化されており、マンモス大学ではできないきめ細やかな教育が実現できる仕組みとなっています。詳しくは文部科学省のホームページに分かりやすく説明されていますので、多くの人に見て頂きたいですね。
【文部科学省専門職大学ホームページ】https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/senmon/
宮田専門職大学ならではの科目に「展開科目」があります。これは、一般大学には無い学びです。自らの専門分野の枠を超えた様々な分野の学びを通して、応用力を身に付けることができます。先日文部科学省の方とお話しする機会があったのですが、その際、社会の変化が激しくなっている昨今、専門性に加えプラスアルファの知識を身に付けることが重要だと話されていたことが印象に残っています。私自身、「展開科目」の担当教員として教壇に立っていますが、この科目群に専門職大学の未来を感じます。
小林敬心学園の設立した「東京保健医療専門職大学」は、東京都江東区に位置し、理学療法士、作業療法士の育成を行う大学です。先ほど、専門職大学ならではの科目として「展開科目」があるとの説明がありましたが、本学においては「隣接他分野」と「組織の経営・マネジメント」の2本柱でカリキュラムを構成しています。
宮地「隣接他分野」ですが、こちらに示した科目がラインナップされています。理学療法学科には、ロボットの活用、スポーツ、コーチングといった科目があります。作業療法学科には、ユニバーサルツーリズム、美容ケア、音楽療法といった科目があります。専門分野から視野を拡げた、ユニークな学びの機会が提供されています。
宮田「組織における経営・マネジメント」は理学療法学科と作業療法学科で共通して設置した分野で、経営戦略やマーケティングあるいは人材マネジメントを学びます。大学卒業後に医療の専門職として働く学生が多いと思われますが、医療機関や役所などの「組織の一員」として働く側面もあります。本学では展開科目を通して、「組織の一員」として働く上で必要な知識やスキルを身に付けることができます。こうした学びにより、本学は「共生社会の実務リーダー」の育成を目指して参ります。
小林本学は、医療機関などで働く医療専門職の育成に加え、企業など幅広い舞台で活躍したい人や起業したい人を積極的に応援したいと考えています。展開科目で、経営・マネジメントをしっかり学び、専門分野以外の幅広い知見を得ることによって、一般の医療系大学出身者に比べ長期的に高い競争力を持った人材の輩出につながると期待しています。
小林専門職大学は実務に精通した実務家教員が多く所属しています。本学においては、理学療法学科に27名、作業療法学科に25名の専任教員が在籍。つまり、専任教員1名に対し、学生数が12名ということです。まさに少人数教育です。さらに、1クラス40名ごとに担任の教員と副担任の教員が付きます。大学全体で「圧倒的な面倒見の良さ」を合言葉に、きめ細やかな教育活動に邁進しています。
<第4回に続く>
※小林理事長が講演を行う一般社団法人専門職高等教育質保証機構主催の国際シンポジウム(QAPHE国際シンポジウム2022)の詳細は、QAPHEのホームページをご確認下さい。
https://qaphe.com/seminar/futureevent/20220127intersympo/