2021.12.22
2022年1月に開催される専門職高等教育をテーマとした国際シンポジウム(主催:QAPHE/専門職高等教育質保証機構)で、敬心学園の小林光俊理事長が講演を行います。
その際に発信する内容について、東京保健医療専門職大学の宮田雅之教授と宮地恵美子教授と対談を行いました。4回シリーズで掲載いたします。
宮地小林理事長は、日本の高等教育の発展に向けて全国専修学校各種学校総連合会(全専各連)の会長(当時)として尽力されましたが、なかでも「職業実践専門課程」の創設は大きな成果として挙げられると思います。第2回では、この経緯についてお聞きします。
小林では、この背景を説明するために、大学と専門学校の関係からお話しましょう。近年の専門学校への入学者数は約28万人で、高等教育機関への進学者の約24%を占めていますが、過去30年以上、学校数も入学者数もほぼ横ばいとなっています。一方大学は、学校数も入学者数も増加傾向にあります。このように大学志向が強い中、高い実践力が身に付く専門学校の良さを社会にアピールすることの必要性を感じていました。
職業教育の水準の維持向上を図ることを目的とし、実践的な学びを文部科学大臣が認定する「職業実践専門課程」は、専修学校の質の保証・向上に寄与するものです。私はこの考え方に賛同し、その創設に尽力したのです。これは、日本の高等教育における「アカデミックライン」と「プロフェッショナルライン」の複線化を実現するための、大きな一歩となりました。
宮地かねてから、日本の教育界においては、アカデミックが上、職業教育が下、という雰囲気があると感じています。純粋に学問を追求することが尊く、お金儲けは何となく卑しい(笑)といったような印象があります。これは日本独特のものなのでしょうか。
小林この問題を考える上で、国の教育制度を考察する必要があります。日本は中学卒業後、殆どの学生が高校に進学しますが、その70%が普通科に在籍します。つまり、一部の高校生以外は、大学や専門学校等に入学以降、初めて専門的な職業教育に触れるわけです。特に、一般の大学は産業界等での実務経験の無い「学問一筋」の教員が殆どです。そのため、学生が職業に本格的に接するのが大学卒業後になることは珍しくありません。もちろん、大学で高い教養を積むことには意味があると思いますが、職業教育を受ける選択肢が少ないことは問題ではないでしょうか。
宮田日本の大学生は、「インターンシップ」として職業体験を行うケースが増えてきていると思います。しかし、インターンシップは優秀な学生を「青田買い」する場である、と揶揄する声もあります。また、インターンシップのプログラムが、企業側に委ねられていることも、体系的な職業教育になっていると言い難い原因だと思います。
小林ここで、海外の教育制度と比較しながらこの問題を考察してみましょう。例えば、「国民1人当たりGDP(2020年、IMF)」が世界第2位、「世界人材競争力ランキング(2020年、国際経営開発研究所)」では世界第1位のスイスでは、高校生時代から「職業教育」に積極的に取り組んでいます。日本の高校生の約70%が普通科で学んでいるのに対し、スイスの高校生の60%以上が職業教育・訓練を学んでいるのです。
宮田スイスでは高校生の6割以上が職業教育を学んでいるとは、大変驚きました。日本とは大きく違うのですね。
小林次に、福祉先進国であるフィンランドの事例をみてみましょう。フィンランドでは、「アカデミックライン」としての一般大学と、「プロフェッショナルライン」としてのポリテクニック(応用科学大学/アプライド・ユニバーシティ)との複線型の教育制度となっています。
宮田フィンランドは、小林理事長が日頃主張されている「日本の高等教育の複線化」を進める上での、まさにお手本と言えるのではないでしょうか。
小林そうですね。話を専門学校における「職業実践専門課程」に戻しましょう。
専門学校は地方自治体に認可を受けている高等教育機関です。一方、大学は文部科学省、つまり国の認可を受けています。この制度の違いが、大学が上、専門学校が下、と見られる原因の一つになっていると考えられます。
こうした状況を打破する意味でも、専門学校の職業教育について国の認定を受けることは大きな意味があると考え、「職業実践専門課程」の創設に尽力しました。多くの方々の努力を賜り、2014年に文部科学大臣の認定として制度が立ち上がりました。
宮地2014年の制度創設から5年後の2019年度には、約1,000校の約3,000学科が「職業実践専門課程」の認定を文部科学大臣から受けるまでに拡がりました。ステータスの向上に問題意識を持っていた専門学校が多かったことが想像されます。
宮田「職業実践専門課程」の認定要件を見ると、「企業との連携により」と記されている箇所の多さに目が留まります。企業との連携による実践的な学びを大変重視している内容になっていることが伝わります。
小林企業は常に社会の進展・変化に合わせイノベーションを続けて行わなければ生き残ることはできません。そのため、職業教育も常に企業や社会の進展・変化に合わせ、新しい知識や技術を学び、発展していかなければなりません。常に企業等と連携して新しい学びを取り入れ、実践的な学びを進めていくことが求められます。
私の尊敬する福澤諭吉先生の有名な言葉に、有名な「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」があります。このことは学校種においても同じだと思います。つまり、専門学校と大学は上下の関係ではないはずです。大学は「アカデミックライン」を、専門学校は「プロフェッショナルライン」を担う、共に日本の高等教育の発展に貢献する同志と考えています。<第3回に続く>
※小林理事長が講演を行う一般社団法人専門職高等教育質保証機構主催の国際シンポジウム(QAPHE国際シンポジウム2022)の詳細は、QAPHEのホームページをご確認下さい。
https://qaphe.com/seminar/futureevent/20220127intersympo/