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敬心学園

2021.12.15

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【対談】理事長小林が語る日本の専門職業人材教育の現状と課題(第1 回)

2021.12.15

対談日本の高等教育機関における専門職業人材教育の現状(4回シリーズ)

2022年1月に開催される専門職高等教育をテーマとした国際シンポジウム(主催:QAPHE/一般社団法人専門職高等教育質保証機構)において、学校法人敬心学園の小林光俊理事長が講演を行うことになりました。

講演にあたり、小林光俊理事長と東京保健医療専門職大学の宮田雅之教授及び宮地恵美子教授との3者で、専門職高等教育について対談を行いました。その内容を4回シリーズで掲載いたします。

【第1回】 我が国の専門職高等教育の課題

宮地これから4回に渡り「日本の高等教育における専門職業人材教育の現状」というテーマで小林理事長にお話を伺って参りたいと思います。はじめに、「我が国の専門職高等教育の課題」について小林理事長がどのような問題意識をお持ちか、お聞かせください。

小林光俊理事長小林光俊理事長

小林日本の専門職高等教育の問題を考える上で、まずそのアウトカムである日本の産業界、ひいては社会経済の成長を考える必要があります。残念ながら、日本の労働生産性は国際的に決して高くありません。デフレ状態が続き、「失われた30年」という言葉もあります。豊かな日本を復活させるためには、付加価値を効率よく生み出すことが必要です。そのためには、産業界の発展をけん引する人材教育、特に「職業能力の開発」は大変重要です。教育は、日本の産業界等の成長のエンジンになると確信しています。そのためには、職業教育に当たる者たちが日本をけん引するという気概を持って、この難局に当たる必要があると考えています。

宮田雅之教授宮田雅之教授

宮田その通りだと思います。小林理事長が問題意識として挙げられた付加価値・労働生産性と教育との関係を、裏付けとなるデータを元に見て行きたいと思います。

まず、国民一人当たりのGDPです。日本のGDPは、総額ではアメリカ、中国に次いで世界3位ですが、IMFの2020年調べによると国民一人当たりでは世界で24位です。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた時代と大きく様変わりしています。

小林そうなのです。日本はこの30年間、経済成長が止まっています。勤勉な国民である日本人が、どうして諸外国のように成長できていないのか、疑問を持つ人は多いと思います。日本は高度経済成長によりアジアの中で唯一のサミット参加国となった一方で、安心・安全が国民標語になりました。バブル崩壊後、国際社会の中で新しいことや変化に挑戦し続けることの大切さを見失い、国民の安心・安全に対する同調圧力の強さを背景に、変化に乏しいマインドが出来上がっているのが心配です。

宮田次に、日本経済新聞に掲載されていた面白いデータを見てみたいと思います。横軸に「仕事関連の再教育への参加率」、縦軸に「労働生産性」を取り、OECD主要国がプロットされています。このグラフを見ると、再教育への参加率と労働生産性との間には相関関係があることが分かります。残念ながら現在の日本は、先進国の中で再教育への参加率も労働生産性も共に低い国となってしまいました。

主な先進国の労働生産性と仕事関連の再教育への参加率
【出所】 OECD.Stat 及びOECD (2019), Survey of Adult Skills (PIAAC),をもとに敬心学園作成

小林私が注目しているのはこの視点です。すなわち、職業教育の発展・強化無くして、日本の成長はあり得ないということです。国を豊かにするためには、再教育参加率を増やすことが重要であることが、このデータからハッキリと読み取れます。

主要国の平均賃金(年収)の推移
【出所】 OECD (2021), Average wages (indicator).をもとに敬心学園作成(1ドル=110円)

宮地さらに、日本の平均年収をみると、この30年間、全く増えていないのです。他の主要国は、一定の経済成長を遂げていることと対照的です。我が国は戦後奇跡的な復活を遂げた実績があるにもかかわらず、諸外国が経済成長している中で、日本だけが30年間全く成長していないことには違和感があります。

小林改めて数字で見ると、日本の厳しい現状が確認できます。今や、日本の平均年収はアメリカの半分です。お隣の韓国にも抜かれてしまっています。このことからも、国民のリカレント教育すなわち再教育への参加率を増やして、労働生産性を上げることが必要と言えます。

宮地恵美子教授宮地恵美子教授

宮地再教育への参加率を上げるためには、民間の努力が必要ですが、デフレ経済が続く中、企業が従業員教育にお金をかけられない現状があると思います。この点について、小林理事長はどのようにお考えでしょうか。

小林世の中を俯瞰して考えると、現在のように民間が苦しい時こそ、公による援助が重要だと考えます。民間は当然のことながら個の生き残りに必死です。限られた予算に優先順位を付けて使う訳ですが、中長期的な取り組みである「教育」は緊急予算から外されやすい傾向があります。

「教育」の大切さを認識していない経営者はいないと思いますが、予算をかけられない状況にあるのも事実です。それにもかかわらず、高等教育に関する国の公的支出は十分ではありません。

宮田高等教育に対する公的支出のGDP比を見てみますと、日本はOECD加盟国の中で最も低い国となっています。OECD加盟国の高等教育への国の公的支出が、平均でGDPの0.954%であるのに対し、日本は僅か0.432%と、OECD平均の半分以下の水準です。

高等教育に対する公的支出(各国2017年のGDP比)
【出所】OECD「Education at a Glance 2020」を元に敬心学園作成

宮地こうした中、日本は大学生に占める25歳以上の割合が、OECD加盟国の中で最も低い国となっています。OECD加盟国の平均では、大学で学ぶ学生の18.1%が25歳以上であるのに対し、日本は僅か1.9%です。

25歳以上の入学者の割合の国際比較 (2012年)【大学型高等教育】
【出所】文部科学省「社会人の学び直しに関する現状等について」

小林こうした状況に危機感を覚え、私自身、この10数年東京都専修学校各種学校協会、全国専修学校各種学校総連合会の会長を努めるとともに、同志の皆さんの協力で日本における職業教育の活性化に取り組んできました。その成果として、専門学校における「職業実践専門課程」の創設、職業教育に積極的に取り組む新しい大学である「専門職大学」の制度化を実現することが出来ました。もちろん、多くの方々のご協力があって出来たことです。この2つのテーマについて、この後、詳しくお話ししたいと思います。<第2回に続く>

専門学校→2014年 職業実践専門課程→2019年 専門職大学

※小林理事長が講演を行う一般社団法人専門職高等教育質保証機構主催の国際シンポジウム(QAPHE国際シンポジウム2022)の詳細は、QAPHEのホームページをご確認下さい。
https://qaphe.com/seminar/futureevent/20220127intersympo/

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